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2017年09月06日

最終打席・・。

・・この夏、思い出した出来事・・。少し長くなるがお付き合いのほどを・・。

去った夏休みのこと。自分の職場に「ことばの教室」という障害を持つ子供たちが
日常の地域生活や社会的規律を身につけるために支援・訓練する教室があるのだが。
約8年前になるだろうか?そこに通っていたユウキ(仮名)が突然顔を出した・・。

「監督~。」 「ん?」 机に向かい仕事をしている中、ふとその声の方向に顔を向けると、
約170センチ以上ぐらいになるか、スラッと背の高い青年が立っている・・。
「ん?はた、誰だっけ・・?」 しばし考えていると、自分の顔を見てニコって微笑む。
「おお~♪ ユウキか~。」 笑った時の垂れた目尻が印象的。それを見て思い出したのだ。

「元気だったか?」 「うん。」 席を立ち彼に近づくと、昔の面影は笑った時の顔だけ。
だいぶ背が伸び、視線を合わせるためには、少し見上げなければならないぐらいだ。
「大きくなったな~。」 背比べのように側に並ぶと、自分の背丈をはるかに通り越している。

「・・・。」 まあ~二十歳ぐらいになるので、そうなるよな~なんて納得した次第で。

ユウキは、うちの凛太朗と同級生・・と言っても通っていた小学校は違っていたため、
凛にしてもあまり知らないのだが、唯一共通していたことがある・・。それは「野球」である。
名護ブロックにおいても強豪であった学童野球チームに所属していた約2年半余り、
ユウキは、その学童野球チームの一員として一生懸命に頑張っていたのだ。

そんなユウキは、軽度の知的障害・・。しっかりと自分の身体を動かせることもままならず、
比較的動作も緩慢・・。なかなか出場機会にも恵まれなかっただろうと想像するのだが、
ただ、野球に対しての意欲と情熱は人一倍強く、並々ならぬものがあった。

当時、6年生・・。ことばの教室に来る姿は、そのチームの「帽子」を被り、左手にはグローブ。
教室に着くや否や真っ先に自分の机に駆け寄り、「キャッチボールしよ。」ってやってくる。
「よーし!やるか・・。」 仕事の手を休め、自分もグローブを片手に中庭に飛び出す。

「・・いつもありがとうございます。」 お母さんが教室に顔を出すたびお礼を申し上げる。
「いやいや、自分も好きなんで。」 自分がサンガーズの監督をやっていることも承知。
大会や練習試合で顔を見かけるたび、お互いに声を掛け合っている。


そんな中、この年の「6年生送別大会」でのこと・・。
名護ブロック監督会主催のこの大会は、学童野球を卒業する6年生を労うための大会。
当然、出場する選手は6年生がメイン・・というルール。メンバー不足の時は、下級生で補う。

この大会おいて、ユウキが所属する強豪チームは、前評判通りの決勝進出を果たす。
決勝戦も最終回、強豪チームが大差でリードしていた攻撃の時、代打にユウキが告げられた。
すると、ベンチや応援団はヤンヤヤンヤの大盛り上がり。大きな声援が送られている~。

当時、その強豪チームの監督さんは自分の高校時代の野球部の先輩だ。
最後のこの場面で見せた粋な計らいに、思わず感謝の言葉を申し上げたくなった。

「頑張れ~、ユウキ~。」 事務局としてバックネット裏で観戦していた自分も大声を上げた。

しかし、ユウキが緊張した面持ちで右打席に向かうも、なかなか打席に入ろうとしない。
主審が促すもバットを肩に乗せ、うつむいている。タイムがかかり、主審がベンチに向かう。
先輩監督に対し、主審が一言・・。すると事務局の自分も手招きでベンチ前に呼ばれた。

「ちょっと危ないような感じがして。」 主審も心配そう。「・・・。」 無言でユウキを見つめる。
このまま引っ込めるのも忍びない・・。しかも、6年生では同じチームメイトでやる最後の大会。
ユウキにとっては、これが最初で最後の打席になるかもしれないなのだ・・。

自然に応援団の中にいるユウキのお母さんに視線が向いた。お母さんが駆け寄る。
「大丈夫です。そのまま打席に立たせてやってください。」 必死のお願いに胸を打つ。
すると、主審が相手投手の方へ行き、何やら一言二言・・。相手ベンチでも一言二言。
その間、先輩監督は打席の前で躊躇しているユウキの肩を抱き、話をしている。

そしてそれぞれが所定の位置につきプレー再開・・。先輩監督がユウキの背中を押して
打席へ入るよう促すと、ユウキの両足がバッターボックスの最後尾に入る。
その瞬間、球場全体から大きな歓声が上がる・・。勝敗なんてすっ飛んでしまっている。

「よ~し、この調子だ。負けるな~!」 自分も周りに負けないほどの檄を飛ばした・・。


先輩監督は、そのままバッターボックス後方でユウキの打席を見守っている。
「プレー!」 主審がコールにピッチャーが第一球・・。アウトコースに大きく外れるスローボール。
続く第二球も同じようなボール・・。主審がこのようなボールを投げるようにお願いしたのか?

結局、ユウキはバットを一度も振ることなく四球で出塁。その後、代走が送られた。

野球の勝負事と言うには、ほど遠い光景であり、この温情的な行為に対し、賛否はあるが、
いずれにしても、その場面に立ち会った全ての人が納得し、協力してくれたお陰で、
これまで頑張ってくれたユウキの最終打席を飾ることができた・・と思うと、
何かしら胸が熱くなってしまったことを、今でも記憶として鮮明に残っている・・。


最終打席・・。


「野球はやってるか~?」 そう聞くと、「・・・。」 無言で首を横に振る。
中学生の途中、本土出身であるお母さんの田舎に引っ越し。そこで暮らしている。
今は、知的障害者が通う就労支援作業所で働き、日々頑張っているとのこと・・。

「そっか~。よし、今度来る時はキャッチボールしよう~!」って言うと笑顔満面で返してくれた。
すると、あの6年生送別大会、あの打席の光景が思い出され、また少し目頭が熱くなった・・。

・・そしていつか、あの「ことばの教室」に通っていた当時のように。


いつもの「帽子」を被り、「グローブ」を持って来られた日には、なお一層泣けてくるなあ~。





Posted by UMUサン at 19:50│Comments(2)
この記事へのコメント
ブログを読んで最高に熱くなりました。
ありがとうございます。
なんと表現していいかが分かりませんがありがとうございます。
スポーツ(野球)を通し、人と人との大切なモノが育まれ、その場面の一瞬に心深く描かれたのだと思います。
すごいです。野球道。
ありがとうございます。
Posted by 山原チョンダラー at 2017年09月06日 22:37
** 山原チョンダラーさん こんばんわ。**

いつもご訪問いただきまして、ありがとうございます。

子供たちがどんなに大きくなっても思い出は変わらず、
いつも新鮮のままです・・。
そんな思い出のひとつひとつが自分にとって財産であり、
そして、原動力でもあります。
お互い、いくつになってもあの時と同じように、
思い出話に花を咲かせるように野球ができたらと
思うと、たまらないですね~♪

自分の子供たち含めて、今までの教え子たちと
野球ができたら・・なんて思うと、
今からワクワクしてしまいます~。

その日が来るまで頑張る所存です・・。
Posted by UMUサンUMUサン at 2017年09月08日 21:28
 
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