サンガーズ奮闘記

「あ～・・、野球がやりて～。」と部活から帰ってきた竜誠が叫ぶ。
「・・。」　ん？今お前、部活から帰ってきたばかりだろうが・・って言うと、
「いや、そうじゃなくて、『プレーがしたい。』って意味で・・。」と説明を付け足しする。

まだ、覚えているが、
８月５日（水）にシートバッティング練習の際に顔面直撃のデットボールを受け、鼻骨を骨折。
１週間の療養期間を経て手術・・。それから、さらに１週間休養し、８月下旬に練習に復帰。

「鼻の骨がしっかり固まるまではボールを使用した練習は禁止だよ。」と医者からの忠告。
・・手術終了後１ヶ月は、そのような指示があったんで、指示に従わざるを得ない。
その間、黙々と筋トレや走り込み、体幹トレーニングに精を出している。

・・彼の今までの野球の中で、これほどボールに触れない期間があっただろうか。

「・・しょうがないだろ。医者がしばらくはボールに触るなってことを言ってるんだし。
今回の秋季はどうせ間に合わないから、来年の春季を目指して他の子供たちより
早めの『冬トレ』って感じで、基礎体力アップに臨んだらいい・・。」と進言。

しかし、そんな自分の言葉では、彼の「野球やりて～」欲求は解消できないようだ・・。


これまで「故障」に泣いてきた子供らを多く見てきた・・。
練習中の事故であったり、練習過重に伴う肩や腰などの身体疲労による故障、
あるいは、自分の不注意による怪我など、故障の種別は様々ではあるが、
いずれにしても、その「故障」している期間は「野球ができない」って状態なのである。

「野球がやりて～」のにできないとなると、体の不調はおろか、精神的にも滅入る時期。
心と体は連動している～っていうのが良く分かる感じがする・・。

「ま、春まではたっぷりと時間もある。まずはしっかりと焦らず治すことだな。」
そのアドバイスが功を奏すかどうかは定かではないが、そう言うことしかかけられない。


自分もそういう経験がある・・。ちょうど今の竜誠と同じ時期の高２の夏。

外野守備の練習中、大飛球を追いかけ、雑草に足を取られ左手側から転倒。
「あが・・。」と立ち上がって痛みのある左手首を見ると、あらぬ方向を向いている。
・・急いで病院へ行くと、「左手首骨折、全治１ヶ月」との診断・・。
１週間後には、大事な秋季大会が迫っているというのに。脳裏に真っ先に浮ぶ。
「マジか・・。」 そんな思いが錯綜する中、その日から左手ギブスの現実を強いられた。

選手登録後であったため、そのままベンチ入りはできたものの、当然試合は無理。
晴れの舞台に、左手ギブスという何ともお粗末な姿で、泣く泣く出場したという始末・・。
あの時の悔しさというか情けなさというか・・。今でもしっかりと記憶にインプットされている。

秋季大会終えても、しばらくをギブス生活を余儀なくされていると、
甲子園へ出場したことのある「神の先輩」の一人が久し振りに練習に顔を出し、
自分を見るなり「アホか、何をやってる。」と痛烈な一言・・。自分はさらに撃沈。

「・・・。」撃沈したまま、一人長椅子に座り、右手でダンベルをやっていると、
その「神の先輩」がやってきて、隣に座った。「まあ、怪我はしょうがない。しっかりと治せ。」と。
先ほどの痛烈な一撃と打って変わり、穏やかな口調に面食らった・・。

「・・はい。」 小さな返事をするのがやっとである。
ま、確かに先ほどの言葉には撃沈したが、それ以上に「野球」ができないもどかしさで、
その気持ちが小さな返事に反映されていたのである。

「春までには時間がたっぷりとある・・。その春の時に、今の悔しさを晴らせばいい。
今落ち込んで何もしないでいると、春には咲かないぞ～！」 と激励をいただいた。

自分らの時代、甲子園にはあと一歩届きませんでした。
「春に咲いたか」かどうかは、自分も誰も知る由もありませんが、
自分にとっての高校野球は、十分にやりきってきたと自負している。
それが「春に咲いた」という意味とするならば、「春に咲いた」ということであろう

・・しかも、そのことは確実に今の自分につながっている感じがしてならない・・。





「竜誠、春に咲かせよう～♪」なんて、
自分が敬愛する「神の先輩」のように、気の利いた台詞は口に出せないが、
今の彼の気持ちを理解することはできるし、応援することも十分に可能である。

そして、彼の「春に咲かせる」一念発起の頑張りは、高校野球時代だけにとどまらず、
必ずや、近い将来につながるものだと確信している・・。


さあ～、今こそ正念場である・・。　頑張れ、竜誠～♪